宇宙をぶらぶら漂流中

時松功平です

1月7日

船は20ノットで宵の口の熊野灘を進んでいる。

このあたりは、陸路でも行ったことのない土地だ。僕は、たしなむ程度には歴史が好きなので、いずれ観光に訪れたいエリアの1つだ。

このあたりの地平は、ただ山が横にのっぺり広がっているだけで、灯りも何も見つけられない。暗くなってきた海面はとてもなだらかで、まるで枯山水のように何者かの手によって綺麗に均されているように感じられる。

東京・台場に着くのは明日の朝5時過ぎであるから、船中から見える晴れ晴れした地海の風景はこれで終いである。

日が暮れて、他の乗客達はショーの終わりだと言わんばかりに、エントランスホールから自室へと帰って行く。残っているのはイヤホンを着けて端末を覗き込んでいる、どこでも見かけるような人ばかりだ。後は船内の販売機で売っているフードを食べたり、酒を飲む者も居る。ホールの席でひとりで飲食している人の表情ほど寂しさを感じさせるものはない。そういえば、乗船直後からやたらと人に話しかけていた白髪頭の痩せたスペイン人が居たが、今朝早くに船首側の誰もいない休憩所で膝を抱えて海を眺めていたのを見かけて以降、姿を見ていない。

かく言う僕も、販売機で徳島ラーメンのカップ麺を買って、味わうでもなく食っている。どことなく不満感が湧き上がってくるのがわかる。食事は生きる為の最低限で事足ると言い切れるのであればそれで満足すべきなのだとは思う。むしろこれまで贅沢し過ぎたのかも知れないし、化学味のする醤油が効き過ぎたスープにも感謝するべきであるかも知れない。

それはそうと、今は『北京のひとり者』という本を読んでいる。陳若曦という、50年前の中国で起こった文化大革命を実際に体験した女性が書いた作品集だ。僕自身、文革というのは聞いたことがあるだけで、調べてみたこともあるが理解し得ないままだった。しかし、本書はその時代の感覚や、具体的な人物の立場から見えるものを伝えてくれるので、他国の歴史の一つの時代・事件をある一辺から描いたアプローチとして大いに理解を助けてくれる。やっぱり本は面白いなと改めて感じるに至った。