宇宙をぶらぶら漂流中

時松功平です

昨日のお話

2月19日の朝は、荻窪に住む伊藤という、大学時代からの友人の家に居た。

昨夜のバイト終わりにそのまま伊藤と飯を食い、家に泊まらせて貰うことになったのだが、彼が持ち帰りの仕事をしながら傍らで再生していた「機動戦艦ナデシコ」を深夜3時まで見ていたので、目が覚めてしばらくしても眠気で頭が回らなかった。

更に熱っぽさと浮遊感があったので、いっそバイトを休もうかと思ったが、いくつか任されている仕事があり、お金もないので考え直し、結局、薬局でマスクを買って出勤した。

バイト先に着くと、僕をバイトに誘った雑誌編集者である丸山(彼も大学の同級生で、伊藤の親友)は北陸への取材から帰って来ており、すでに仕事を始めていた。

先週末、丸山から一週間ほど便秘が続いているという悩みを聞いていたので、いよいよ彼のストレスも極限状態かとかなり心配していたが、無事取材も終わったからか、出勤前には腸の方もなんとか解決していたようでひとまず安堵。僕もパソコンに向かい仕事をする。

そのまま昼が過ぎ夕方になり、ナデシコのオープニングソングが脳内を100回流れたころ、僕が任された作業が期待された期限になんとか間に合う目処がついてこれまた安堵。決められた時間が来たので、机上に散らばる資料をまとめてノートパソコンを畳み、未だそれらにかじりついている丸山を後に残して伊藤の家へと帰った。

僕は伊藤の家に泊まるのは珍しくない。上京して以来、週に一回は墨田ではなく荻窪へ帰る。そこで何か一緒にするというわけでもないのだが、ぽつりぽつりと言葉を交わしながら夜を過ごす。彼も丸山と同様で、はたから見た秀麗さや格好良さや個人単位に責任が付随する仕事である代わりに残業という概念が存在しない業界の一員であり、彼に至っては仕事を終えるのが夜半に達する生活が日常化しているため、誰がどう見ても心身ともに疲弊して塞ぎ込んでいる。

預けられていた鍵を使って、先に伊藤の部屋に帰った。シンクに溜まった洗い物を片付けてやろうかと考えながらも、床にマットレスを引き出して寝た。

21時半ごろに起きると、伊藤が22時には退社できそうだと言うので、バイクで渋谷まで迎えに行くことにした。

脱いだ服を再び着込み、横一文字のハンドルに固定したスマートフォンが表示する青い線の屈折を気にしつつ、小雨の降る片道三車線をまばらに走る車の間を縫うようにして目的地へ向かっている道中、突然、音もなく後輪が完全に回転を止めた。

濡れた路面を左右に滑りながら、必死にバランスを保ちつつ、バス停用の路肩へ退避する。

下車して確かめてみると、後輪の車軸に、防寒の為に首に巻いていたコットンのマフラーがぎっしりと詰まっていた。

僕とバイクのすぐ傍らを掠めるようにざんざんと過ぎ去ってゆく車。近くでたったひとりバスを待っている女の人は突然目の前で起こったアクシデントに驚いて不安そうに突っ立っている。

そんな中、僕は左手でバイクを引っ張って後退させながら、姉に買ってもらったグレーのふわふわなマフラーを右手で抜き取った。

怪我もなく、バイクそのものに異常はなかったので、ふわふわでずたずたになったマフラーを首に巻いて上着の中に入れ込み、改めて伊藤を迎えに出発した。

ビルから出てきた伊藤を後ろに乗っけると「一日忙しすぎて何も食べられなかったから腹が減って仕方がない」と言っていたので、僕らは帰り道のデリバリーのピザ屋でピザを2枚テイクアウトした。ピザを買うのはある滋賀での日以来久しぶりで、サイズ感が分からないまま2枚ともLサイズにしてしまって、受け取るや否や互いに「これは全部食えねぇだろー」などと言って笑った。

伊藤は酒が飲めないぶん、コーラをこよなく愛している男だ。部屋に行くたびにテーブルやシンクの脇には必ず空になったコーラのペットボトルや缶が新たに屹立している。

無事にバイクで家に着き、彼の家の最寄りの自販機でコーラを買おうとしたが、こんな時に限って、ピザの相方としてビールに比肩するそれを買うためのボタンに赤字が点っていた。彼は一瞬の逡巡も見せずに次に最寄りの自販機に歩いて行ったが、そこにはお茶とコーヒーとカルピスソーダくらいしかなかった。

このコーラ愛好家は、くるっと踵を返すと元の自販機でマウンテンデューを買った。ペプシの代わりに、緑の、更に化学味の際立つ感じのする砂糖炭酸水で我慢することにしたようだ。

帰って座ってテレビを点けると、ちょうどドラマが始まったところだった。主人公や同僚たちが異常に生意気な新人に手を焼き、案の定新人が犯したミスを主人公たちが身を挺してフォローしてやり、うなだれる新人に教えを説いて改心させるという、オフィス版聖書、勧善懲悪イケメン俳優売り出し演出とストーリーのドラマで、ふたりで感想ぼやきながら(僕は水を差すようなケチをつけるばかりだったが。我ながら悪い癖だと思う)ピザを摘み続けた。

ふたりでそのほとんどを一気に食い散らかしたが、さすがに全部は食べられなかった。ちなみに「マウンテンデューは飯に合わねぇー」らしい。

僕は満腹と風邪っぽさで眠くなってしまって、洗い物を片付けるという目標を達成しないまま、今度はストリーミングの「けものフレンズ」をぼんやり見ていた。その間、洗い物はなんだかんだ伊藤がやっていた。お役に立てずすまない。

それから、伊藤を含む大分県出身で在京の友人らと、今週末にサッカーJリーグ大分トリニータの開幕戦を見に鹿島へ行くべく、チケットや予定を決めて、ほどなくして2時ごろ寝た。大分トリニータは、ちょうど僕らが少年の頃に大躍進を遂げた。長年の低迷ののち、再興を遂げて今年からJ1リーグに復帰したという展開。

そうした熱にあてられて、我が出身地のサッカークラブ、レノファ山口の試合も見たくなる。だがサッカー観戦に興味のある同郷の友人はいない。僕らが少年の頃は地元にJリーグ所属のチームなんて存在していなかったからだろうか。無念。県民以外のサッカーファンに声をかけようにもJ2だし。レノファの試合でイニエスタは観られません。

さて、翌日(つまり今日)、朝のうちに荻窪から墨田に帰るついでで伊藤を職場に降ろし、僕は今こうしてブログを書いているのである。