宇宙をぶらぶら漂流中

時松功平です

散文vol.x

時間というものは悲しいかな、バカみたいに早く過ぎる。

多くのことが未着手のまま3月が頭をもたげる。

金は数日のうちに1万2万と減ってゆく。

生活パターンが荒れたままで、心もそれに呼応するように穏やかに静まらないからか、打ち寄せる波に攫われるように金が減る。

 

絶えず小刻みに揺れ続ける船上にひとり。峻険な山岳を思わせる高波に四方から揉まれ傷ついた小舟はようやく河口へと入り、今は黄色く濁った大河の流れに抗うように遡行している。

男はある一点へたどり着くために風を読み、星を測り、舵を取る。時おり、留まることのないよう、下流へ流されてしまうことのないよう、身体全体と櫂とを用いて、自力で船を運ぶこともある。

 

「どうして書かないの?」ぼさぼさ頭の初老の男は僕に言う。

「テーマが定まっていないんです」僕はあやふやな答弁であることを自覚しながら説明する。「僕独自の命題をハッキリとさせ、これから誰かに習う技法に依って小説を書こうと思うのです」

「君にも好きな作品と嫌いな作品とがあると思うけれど、それをただ好きだな、嫌いだなと思っているだけではただの受け手としての態度だ。そのままのやり方を続けていてはいくら多くの作品に触れたとしても一生テーマなんて見つからない。どんなものに心を動かされ、どこが好ましいのか、なぜ拒絶反応を起こすのか、その原因を書き出し、分析し、具体的に浮き出させることがテーマを見出すということだ。君はその作業を全くしていないのではないか。一週間もあればそのテーマ問題は解決するはずだ。」「君ももういい歳していて決して若くはないのに、技法が成熟するのを書かない理由にしているようでは考えが甘すぎて話にならない」といった風な事を言われ、

僕はその後もいくつか彼に弁明したが、まるで鉄城門に小石を投げつけるようなものだった。

真理の軍配は明らかに、彼の方に挙がっていたからだった。

芥川賞の候補者として何度か選定されたことのある小説家とともに劇団を結成していて、当人も写真家として名を成しているその男が実感として話す言葉だ。僕は矛を収め、一旦彼の教唆を完全無比なる真理として受容し、たった一人で漆黒の大海へと探求の船を走らせてみることにした。たった一人でだ。彼は、「他人の反応を気にしていては君は書けない」とも言ったからだ。

 

傷ついた小舟は不可逆なる時間や心の流れに逆らい上流へと向かう。必ずやどこかにあるはずの、我が情動の湧き出でる源流点を見つけ出したいと今は切に望んでいる。