誰のために書いているのか分からない。
ただ、俺のために書く。俺が救われるために書く。
それは嘘。書いて人に見せたところで救われない。
救われるというのなら何故作家が自殺する?
もうだめだ、誰のためにも生きられない。
何がやりたいかも分からない。
収拾のつかない混乱のさ中。混乱が混乱が混乱が渦を巻き止むことがない。
酷い時には素晴らしき音楽を聴いていても、一向に心は楽にならず。
首に巻きついた真綿がじりじりと喉を絞め込んでくる感覚は変わらない。
ただ時間が過ぎゆくだけ。ただ時間が追いついてくるだけ。
他人と共に暮らせば暮らすほど孤独は深まってゆくばかりだ。
純粋な感動を、苦悩を、目の前の人間と分かち合えない絶望が。
様々なことを話せば話すほど、互いに誤解が深まってゆく哀しみが。
人に期待してはいけない、頼ってもしょうがない。
孤独になりたくないが故に真っ当な人間であろうと思う願いが俺の狂気に歯止めをかけている。
しかしそれとは裏腹に、俺が魅せられた人間はみな気が狂っている。
ドレスデンのスローターハウスで、ナチスの捕虜収容所で、薬局で買い溜めしたヒロポンで、フィンズベリーの空き家、適塾で、アシッドで、アルジェリアの太陽で、彼らは長年酷使し摩耗し切ったブレーキを開放させてしまった。
俺は孤独に耐え得るか?世間一般の成功や安心という幻想を振り切ることができるか?顔の浮かぶ他人に向けて、書き言葉と言えども情け容赦なく、刃のあるペンを突き立てることができるか?
その覚悟が出来ていないから俺は消しゴムに負けてしまう。
進むに進めず、留まる事もできない。
体も心も真っ二つに裂けてしまいそうだ。このままだと。