宇宙をぶらぶら漂流中

時松功平です

蝋燭

書店のバイトに行った。11日から完全休業になるそうだ。休業手当は出るそうだが、給付額は通常の約40%程に留まるのではないかとのこと。僕の月当たりの契約時間と時給から計算して、3万円とちょっと。随分と心細いが何もせずに貰えるので、それはそれでありがたい。これから1ヶ月以上も買い手の目に触れることのない新刊物の棚出しなどを手伝った。

帰途、足の赴くままに任せていると、住んでいるアパートを通り過ぎ、その裏手にある川の土手を下った。橋の下の、川面にほど近い場所にあるコンクリートの護岸に腰掛けた。人通りのない対岸をじっと見つめていた。ただ流れる水のあらゆる音に注意を傾けた。何翼もの燕が低空を翻っていた。《明日は、雨が降るだろうか》などと考えた。肌寒さを感じなくなった風を手の甲で遮って、煙草に火を点じた。

夜に目を覚ますと、月光が優しくともくっきりと窓から部屋に入り込んでいた。ベランダに出て、この明かりの正体が街灯ではないことを確認して、僕は嬉しくなって月に片手を上げて挨拶をした。

部屋に戻るとなにか訝しかった。電気が止められていたのだ。悔しさと苛立ちを感じたが、月明かりは依然としてビロード越しの陽光のようであったし、煩雑なテレビもその魔力を失って沈黙していたことで、嬉しくもあった。眠るには勿体無い夜だった。

しかし、本を読むには暗すぎ、キーボードやノートもよく見えない。とうとう月は雲に呑み込まれた。やはり明日は雨だろうか。

長いこと布団の上で身動きもせずに座っていた。僕は蝋燭を取り出した。燭台などないので、猪口を裏返してそれに乗せて使った。

本も読める。字も書ける。短くなる蝋燭を取り替えて、過ぎる時間を知る。小さな炎が直にもたらす光をこれほどまでに愛しく思ったことはない。