宇宙をぶらぶら漂流中

時松功平です

虚ろ

4月17日。土曜日。

 雨は大降りで風も強い。これを書いている今も天井はざんざん鳴り窓はごうごう揺れて実に苛立たしい。夕方には地震かと思って跳ね起きたほどだ。ここは築50年近い古い木造アパートだから、本当に地震が来ればもろくも崩れてしまうかも知れない。しかし実感が湧かないので別段恐れてはいるわけではない。

 今朝は立川駅の少し北にあるEさんの家のソファの上で目が覚めた。同時にTさんがシャワーを浴びている気配がした。起き上がり、ダイニングの大きな窓の外に目を遣ると、見慣れぬ家々の屋根を背景に灰色の空が広がっていた。Tさんが風呂から上がり、曇り空の朝にあまりに似合ったtoeの曲を弾いているのを黙って聞いているとEさんも自室から起きて出てきたので3人でダイニングテーブルを囲み紅茶を飲んだ。Eさんは朝のルーティーンなのか椅子に座るとテーブルを見たまま「アレクサおはよう」と呼びかけた。Eさんの背中越しにあるスピーカーから今日の日付や天気予報が電子合成された女性の声で述べられ、次いでNHKの朝のニュースが再生された。日米首脳会談についてのニュースに端を発しそこから僕たち3人はぽつぽつと政治や外交についての意見を話したりした。二日酔いに天気の悪さも相まってか、どうしてもネガティブな論調に流されがちだったことを覚えている。Eさんは映像作家としての経験やテクノロジー好きとしての観点が面白く、Tさんは太陽熱を扱う会社の業界の実情や役員として働く苦労によって培った独自の人生哲学の話が多かった。長州産業の就職試験を受けていた時期に有力な国内競合他社として挙げられていたパナソニック太陽光パネルから撤退していたことを知り、驚いた。日本の家屋の屋根に全て太陽光パネルを設置する案が与党で持ち上がっていると報道されたらしいが、日本の業界の現状では中国のメーカーが主で、国益にはならないのではないかと言っていた。最近、電車に乗るたびに人身事故の影響を受けるという話を僕がすると、Eさんはアメリカで人工の空洞の中を磁力で浮遊したカプセル状の車両が超高速で移動する輸送計画が実験段階まで進んでいるという話を動画と共に紹介し、これが実現し、日本でも敷衍すれば、設備上、人身事故は起こりえないのではないかという。ただ、車が空を飛ぶようになったら、人間が降って来るかも知れないと言いはじめたので僕らは笑った。

 そうこうするうちに10時を過ぎ、Tさんは近くのショッピングモールの中にあるACTUSに寄って家に帰るというので、僕も一緒に家を出た。僕は開店直後のIKEAで何か食って帰ろうと思いついた。食堂でクリームシチューを食べコーヒーを飲み、11時を過ぎ人も増えてきたので帰りがてら売り場の順路を逆に進んでみた。順路が設定されているということは、人の目線や印象を与える順番なども計算されているのだろう。逆から進むと、陳列された商品の山々に何も印象に残らずつまらなかった。振り向くとたちまち見やすくなった。

 今日は休みの日だったので杉並区の和田堀公園まで行って古着を買おうと思っていたが、家に帰り着いたのが12時で、面倒になったのでやめた。以降特筆するほどのことは何も起こらなかった。大量のパスタを茹で、レトルトのハヤシライスをかけて食い、皿も洗わずに眠った。そういえば、興味深いテレビ番組を見た。幼少期に戦争を経験した児童文学の翻訳者が取り上げえられていて、彼女は、教授として若者と付き合ううちに平和な世の中を生き延びることの難しさを知ったのだという。シンポジウムで出掛けたオーストラリアの街中で見たno futureの落書き、日本の学生から言われた「戦争を経験した人が羨ましい」という言葉…僕はこの歳になってそれらの言葉の意味がわかった。今ではありありとわかり過ぎている。テレビを見ながら、あまりの悲しさに込み上げてくるものがあった。これに関しては、折を見て書こう。

 僕は、今日からここに日記を書いて残してゆく。それはうつろで無駄に思える日々へのささやかな反抗であり、自分の人生に満足いかない理由は何か探し当てようとする試みでもある。

 あすはまた、朝から仕事なのだ。電車に乗って新宿へ行き、日中をずっと光差さぬ百貨店の地下でほうけたように過ごさなくてはならない。