宇宙をぶらぶら漂流中

時松功平です

don't try

 

チャールズ・ブコウスキーのdon't tryの意味を理解するには、セリーヌを知らなくちゃいけない。

 

ブコウスキーにとってセリーヌは重要な人物であることは間違いなく、ブコウスキーの遺作である『パルプ』にも実名で物語に登場し、主人公である探偵は死神の依頼によって彼を探すことになる。

 

さて、セリーヌが持つ人間観に基づいてdon't tryの一文を考えるとこうなる。「人間は2本の足で立ち上がれるようになるとすぐに自分がそれなりの事を成し遂げられる人間だと証明しようと考え始める。これこそが健康な人間の持っている嫌ったらしくて恐るべき性質だ」

 

ここでキルケゴールが引き継いでこう言うだろう。「そして人間は理想の自分と現実の立ち位置を引き比べて、絶望する」

 

次いでブコウスキー。「俺はどん底の生活に浸りながらも詩人になるために粘り強く闘った。書きながら働いて、酒を飲み、顔を赤らめ、女を欲し、屁をひねった。そして歳をとってどうだ、孤独に死んでいくだけじゃないか」

 

なんともまあ。

 

ブコウスキー 『パルプ』17p 柴田元幸ちくま文庫 以下引用

 

俺には才能があった。いまだってある。ときどき、自分の両手を見て、すごいピアニストか何かになれたのに、と思うことがある。なのにいままで、この手で何をしてきた?金玉をぼりぼり掻いて、小切手を書いて、靴ヒモ結んで、トイレのレバーを押して、エトセトラ。俺は自分の手をムダに使ってきたのだ。それと頭も。

俺は雨漏りに囲まれて座っていた。