宇宙をぶらぶら漂流中

時松功平です

漂鳥

夏のカナダは22時に陽が沈む。

今ぼくがアルバータ州キャンモアに流れ着くまでのいろいろは省くが、ぼくは無事にカナダで暮らしている。そんなこと、なにも自慢げに語るようなことではない。じっさい、実家を出て福岡と東京で遊び回り、飛行機に乗り、バンクーバーに滞在しキャンモアでハウスキーパーの職にありつくまでの金を全て姉に借りた。ざっと50万近くにはなるだろうか。

今日はあんまり時間がないから、日本の暮らしと比べて実際どう違うかなんてものを語るつもりはない。

ぼくはぼくの創作活動について書き残しておきたい。いま書いているもの、書こうとしているものについて書きたい。読み書きをする環境について書きたい。

周囲に日本語が溢れていないからか、ただ真新しい環境で心が浮き立っているからか、不思議に本の内容がスッと入ってくる。そしてスッと書きたいことが浮かんでくる。生まれて初めて、生まれて初めて長編を書き上げることができそうだ。ぼくはこのことだけでもカナダへ来てよかったと思う。

そう、そう、昨夜はとてもいいことがあった。このことは是非とも書いておきたい。MONKEYの新号(なんとネルソン・オルグレンが掲載されている!)が発売されるタイミングで柴田元幸さんがyoutube配信で朗読とトークをするというイベントがあった。もちろん500円を払って視聴した。で、申し込みフォームに柴田さんへの質問を募集していたから、感性と知性と勤勉の神に対して幾つかのほんとうに聞きたいことと、以前聴いたラジオ放送で神が自分で訳して朗読したギンズバーグの「吠える」でぼくがどれだけ熱狂したかと言う感想を書いた。そして恐れ多くももう一度聴きたいからデータなりレコードなりで発売する予定はないだろうかとお伺いを立てた。それでイベントの終盤、質問コーナーということになって最後の最後に答えてもらった。もう一度聴きたいとのことですが音源化の予定はなし。ただ神戸で開かれたケルアック展のシンポジウムでも朗読していて、その時は唾が客に飛ばないように横を向いて文字通り吠えるように叫んで読んだのだというエピソードを聞かせてくれた。いやあ嬉しかった。

そう、そして今日は長編の戯曲をまた書いたのだが、あまり内容を書き進めることができなかった。なんだかセリフが気に食わなくなったり違う理由で人物を登場させたくなったりして、枝葉から根に至るまで揺らいでいる。しかしぼくは諦めることはないだろう。書きたいことは変わらないし、書きたいことを書きたい気持ちがまったく褪せていないからだ。この物語を書くことはぼくの身の回りの人たちにとって必要なことなんだとさえ思っている。

ただ焦ってもいけない。カートヴォネガットだって小説を書くのは自転車用のポンプで飛行船に空気を入れるようなものだと書いている。ぼくが今書いているのは戯曲だけど、日本に帰るまで一年ある。冬はバンクーバーでたくさん演劇を見るつもりだから、新しいアイディアもたくさん浮かんでくるだろう。だから、絶えず休まず空気を入れつつ、気晴らしに他の書きたいものも書いたりすればいいだろうと思っている。日本に帰ったら公演を打って、その公演の最後には次の公演の予告をする、、という風に続けざまに活動できるように、いまたくさんの物語を書きまくっておきたい。そしてそれは可能なことのように感じている。